*少々注意


【琥珀と紅玉】


月夜の晩に目覚めれば、そこは二つの血が合間見える心の奥の夢幻世界。
その世界にもある枝垂れ桜を夜のリクオは眺めながら微笑む。


そして、風に吹かれた枝垂れ桜が舞い散る中で目を丸くしたのは昼のリクオ。
『あっ……。』
風に舞う花弁の中を長身の男が立っていた。
銀糸は花と共に舞い、妖艶なる微笑を湛えこちらを見る夜のリクオに体が固まり動けない。
徐々に徐々に近づいてくる銀の妖の紅玉から目が離せずにいれば、すぐに触れられるほどの距離になる。


琥珀の瞳が手を伸ばせば届く距離。
同じ者とは思えない自分とは違う、まだ幼く小さい体。
閉ざされた世界でずっと焦がれた存在が今、目の前に。
「やっと……また、逢えた…。」
手を伸ばせば琥珀は消えずにすんなり腕の中に収まった。
『ごめんね…ずっと…閉じ込めていて…。』
腕の中の琥珀は申し訳なさそうに途切れ途切れに言葉を紡いだ。
別に怒ってなどいない。
閉ざされたこの夢幻世界で一人、ずっと想っていた。
たった一度見た、もっと幼いこの琥珀が忘れられずにただただ、想っていた。
「構いはしない…お前に再び逢えたのだから…。」


前に一度だけ見た紅玉。
綺麗な瞳だった。
けれど…もうひとりのリクオを心の扉を閉めて僕は閉じ込めた。
それなのに今、目の前の紅玉は優しく僕を抱きしめている。
トクントクンと鼓動が聞こえ、抱きしめる手や胸が温かい。
君を閉じ込めたのは僕なのに君は僕を優しく抱きしめ、再び逢いにきたことを喜んでくれている。
『本当に…ごめんね…。』


俺は…リクオの妖の血の部分。隣り合わせにいる人の血のリクオをひどく近くに感じるのに閉ざれたこの夢幻世界では触れることも見ることも許されない。
何度も思い出すのはあの琥珀の瞳。
いつからかあの琥珀を想うようになっていた。
逆に琥珀は忘れてしまったようで扉を閉めたまま…。
だが、次に出逢えたなら触れてみたいと考えた。
そして今、やっとこの腕の中にその存在を感じることが出来た。
「俺はお前の存在をずっとこの手で感じたかった。」
すると、人の血を持つリクオは琥珀の瞳を細め笑い俺を見つめ囁いた。
『なら…もっと僕に触れて…感じていいよ…。』


夢幻世界には、枝垂れ桜と小さな屋敷がひとつ。
屋敷の奥の一室からは熱い喘ぎが響き聞こえる。
『っ……あっ……。』
体を横たえる布団を鷲掴み皺を寄せる、縋るように伸ばされた手に少し大きな手が重なり指を絡め取る。
小さな体は俯せに布団に顔を埋め、琥珀の瞳を虚ろに開き熱く濡れた声を上げて いる。
その体に己を繋げ覆いかぶさる、程よく筋肉のついた若い体。銀の髪を揺らし、紅玉を細め組み敷く琥珀を見つめる。
「………ずっと想っていた。」
『んっ……はぁっ…僕も…。』
まだ幼さが残る体で受け入れる行為は、苦しく辛く…そして、熱く甘い。
熱に慣れていない体は甘い熱を持て余す。
揺さぶる度に背をしならせ体を震わし与える熱に堪える姿は淫らでそして、愛らしい。
その背に唇を寄せ、己の紅い跡を刻む。
『っ……もぅ……だ…め……。』
まだ声変わりもしていない幼さ残る少し高い声色は何度も上げた喘ぎに掠れながらも響き渡った。
その声に煽られるままに夜のリクオは動きを早め、己の限界も近づける。するりと琥珀の主の濡れた昂りに指を絡め、腰を深く打ち付けると同時に強く扱けば手の中のものは熱を吐き出し、己も内部に熱を爆ぜた。
二つの乱れた息使いが交じり合う。紅玉は琥珀をそのまま抱きしめた。
『…っ……あっ……。』
銀の妖は、紅玉を細め笑う。
「愛しい存在…。」


昼のリクオが目を開けば、朝の光が差し込む自室。
体にはまだ艶めかしい君の甘い感覚が残っている。
前に一度だけ見た紅玉。
綺麗な瞳を持つもうひとりのリクオ。

なぜ閉じ込めた?

それは安易な子供の発想。

綺麗だから仕舞い込んだ。

同じ身のうちに住まう妖。

一度の出現でたくさんの鬼を魅了したあの紅玉を自分だけのものにしたい、欲しいと思うのに時間はかからなかった。
その欲はすぐに大きくなりそれをどう叶えることが出来るのかを考えた。

自分だけのものにする方法。

僕はあの紅玉を持つもうひとりのリクオの存在をひどく身近に感じることが出来る。
きっと、君もだろう。

ならば、閉じ込め続けよう…そして、忘れたふりをする。

内に閉じ込め、永く孤独に…そうすれば一番身近に存在する隣り合わせにいる僕のことを考える。
僕のことだけしか感じることを許さない状況は君が自ずと僕に関心を寄せることを誘う。
閉じ込めた僕だけを思うことで生まれるのは興味。

そして、育つものはなにか。

ただ、僕を強く思うことに変わりはない。
合間みえた僕にその紅玉を強く向けることに変わりはない。
だが、無垢な君は己の分身を憎むことはしなかった。

嬉しい誤算は、僕に想いを寄せたこと。

まぁ…もしも、憎しみが育っていたとしてもまた閉じ込めてしまえばいいことだった。

どちらにしろ、離しはしない。

ゆったりと昼のリクオは琥珀の瞳を細め笑う。

『あの紅玉は、僕のもの…。』
己の体を抱き込むように強く抱きしめる。

『………捕まえた。』


End